T-3 鉛直管周りの自然対流熱伝達


1 実験目的
 本実験では,熱伝達率と自然対流熱伝達について,また流れの状態(層流,乱流)が伝熱に与える影響について実験を通して理解を深める.そのために,スピンドル油中にいれた鉛直管周りに発生する自然対流現象を観察し乱流開始位置を測定する.また,鉛直管周りのスピンドル油の温度分布の測定を行う.さらに,測定した実験データから熱伝達率と臨界グラスホフ数を算出する.

2 実験装置および実験方法
 実験装置全体の概要を図1に示す.スピンドル油の入った水槽内に鉛直管が設置されている.鉛直管は内部の電気ヒータにより加熱される.電気ヒータへの供給電力は, スライダックにより調整され,電圧計・電流計でそれぞれ電圧・電流を測定する.温度は鉛直管の壁面温度2点Tw1[℃],Tw2[℃]および, 鉛直管の影響を受けにくい水槽壁面近くのスピンドル油の温度T[℃]をT型熱電対で,鉛直管周りのスピンドル油の温度Tx[℃]をK型熱電対で測定している.鉛直管周りの測定点は, 水平方向に移動することにより温度分布を測定できる.熱電対は, 測定点と零接点(アイスボックス)との電圧差を,切替スイッチで順次マルチメータにより測定する.
図1 実験装置概要図

図1 実験装置概要図

 実験手順は以下のとおりである.
  1. デジタルマルチメータのスイッチを入れる.
  2. 鉛直管の直径と深さから表面積を求める.
  3. スライダックを調節し,所定の条件に電流・電圧をあわせ電流・電圧を記録する.実験は伝熱量を変え3条件行う.
  4. 定常状態となったら,自然対流の流動状態を観察し配布した用紙へスケッチする.鉛直管の上下で流れが変わるので,全体が入るようにスケッチをする.特に温度分布の測定位置での流れが分かるように気をつける.また,乱流開始位置x[mm]を測定する.
  5. 切替スイッチで熱電対を切替え,マルチメータで壁面二点と周囲スピンドル油,鉛直管まわりの熱電対の起電力の最大値Emax[mV],最小値Emin[mV]を読み取り,表の“測定値2 - 4”に記入する.最大値Emax[mV]と最小値Emin[mV]から平均値Eave[mV]を求め“計算値1(平均起電力)”に記入する.起電力は熱電対の精度を考慮し, 0.01 mVの桁まで読み取ること.鉛直管まわりの測定ではノギスを調整し,まず熱電対を鉛直管表面に接触させる(熱電対を鉛直管に押しつけずギリギリ接触させる).接触させた状態で0.0mmの位置での熱電対の起電力を測定する.その後,ノギスを調整し測定位置を鉛直管から遠ざけ指示された位置での起電力を測定する.鉛直管から遠ざかるにつれて起電力(温度)が下がることを確認する.
  6. 測定後“実験結果の整理”(a)-(e)を参照し平均の起電力より温度を求め,熱伝達率,臨界グラスホフ数の計算を行う.
  7. 与えられた3条件に対して,(3)-(7)を行う.
3 実験結果の整理
(a) 温度の算出
 熱電対の起電力の0℃から100℃のJIS規格の基準値[1]を用いて,起電力E[mV]と温度T[℃]との関係を表す2次の校正式を最小二乗法で求めると,次式が得られる.
T型:T = 0.09 + 25.59E - 0.53E2  (1)
K型:T = 0.14 + 24.94E - 0.15E2  (2)
これを用いてそれぞれの熱電対の平均起電力Eave[mV]から壁面温度(Tw1[℃],Tw2[℃]),周囲スピンドル油温度(T[℃]),鉛直管まわり温度(Tx[℃])へ変換する.JIS規格[1]ではT型熱電対の基準値との許容値は±0.5℃である.この装置で使われている熱電対は全てこの許容差の測定精度を持つとして計算をする.
(b) 鉛直管からスピンドル油への伝熱量
 ヒータに加えた電流I[A],電圧V[V]の測定値から,ヒータで消費される電力L [W]は次式で求まる.
L = I V
スピンドル油以外への伝熱がないと仮定し,定常状態ではこの電力L [W]がすべて熱へと変換され,スピンドル油への伝熱量Φ [W]と等しいとする.
Φ = L
(c) 熱伝達率の算出
 熱伝達率h [W/(m2 K)]は伝熱量Φ [W]と伝熱面の面積A[m2],伝熱面の温度Tw[℃],周囲流体の温度T[℃]の関係により次式のニュートンの冷却法則で表される.
Φ = A h(Tw - T)  (3)
本実験で伝熱面は鉛直管表面であり,周囲流体はスピンドル油である.熱伝達率の算出には鉛直管表面温度Tw[℃]と鉛直管の影響を受けない位置のスピンドル油の温度T[℃]との温度差,および鉛直管表面の面積A[m2]を用いる.壁温Twは測定した2点の平均値を求める.
Tw = (Tw1 + Tw2) / 2
式(3.3.4)を変形し,下記のように熱伝達率h[W/(m2 K)]を求めることができる.
式(3.3.5)  (4)
(d) スピンドル油の物性値の算出
 物性値表[2]から代表温度Tr[℃]に対応するスピンドル油の物性値(体膨張係数β[1/K],動粘性係数ν[m2/s])を計算する.物性値を求めるためのスピンドル油代表温度(膜温度)Trは次式より求める.
Tr = (Tw + T) / 2
(e) 臨界グラスホフ数の算出
 乱流開始位置を表す臨界グラスホフ数Grを次式から算出する.
式(3.3.6)  (5)
ここで,g[m/s2]は重力加速度,β [1/K]は体膨張係数,x [m]は乱流遷移位置,ν [m2/s]は動粘性係数である.重力加速度g[m/s2]は9.81 m/s2とする.分子が浮力の大きさを表しており,重力・体膨張係数・温度差・体積が大きいときに浮力が強く働く.また分母は粘性力の大きさを表しており,浮力を妨げる方向に働く.

8 参考文献
[1] JIS規格 C 1602-1995,(1995),日本工業標準調査会, http://www.jisc.go.jp,(2011/01/24).
[2] 西川兼康・藤田泰伸,「伝熱学」, 理工学社, (1982).